翻訳品質のガバナンス:用語集とスタイルガイドで訳のブレを止める
投稿日:
2026年08月23日
更新日:
2026年08月31日

翻訳品質のガバナンス:用語集とスタイルガイドで訳のブレを止める

最終更新日時
2026年08月31日
publishedAt
2026年08月24日
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author
戸部
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多言語サイトの品質問題の多くは訳のブレです。用語集で何を固定し、スタイルガイドで何を決め、誰が承認するか。6種類の辞書の使い分けと、運用が続く体制の作り方を解説します。
作成日時
2026年08月26日
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意思決定
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多言語サイトの品質について相談を受けるとき、実際に出てくる不満はほとんどが同じです。「訳が間違っている」ではなく、「ページによって言い方が違う」です。
製品名がAページでは英語のまま、Bページでは訳されている。同じ機能が「ダッシュボード」と「管理画面」に分かれている。ある記事は丁寧な文体で、別の記事はくだけている。1ページずつ見れば、どれも誤訳ではありません。しかしサイト全体で見ると、統一感がなく、読み手は同じものだと気づけません。
これは翻訳エンジンの精度の問題ではありません。何を固定するかを決めていないという、運用設計の問題です。この記事では、訳のブレを止めるために何を決め、誰が承認し、どう維持するかを整理します。
多言語化そのものの進め方は失敗しないWebサイト多言語化の進め方、検索エンジンへの実装は多言語サイトのSEO実装ガイドで扱っているので、この記事は品質の管理に絞ります。

なぜ訳がブレるのか

原因は3つに分けられます。それぞれ対処が違うので、まず切り分けてください。

同じ語に複数の訳が成立する

「ソリューション」「解決策」「サービス」。どれも Solution の訳として成立します。文脈だけ見れば、どの訳も間違っていません。
翻訳エンジンは1回ごとに最適な訳を選ぶため、別のページで別の訳を選ぶことがあります。人が訳しても、担当者が違えば同じことが起きます。訳が複数成立する語について、どれを使うか決めていないことが原因です。

訳してはいけない語が訳される

製品名、サービス名、ブランド名、型番。これらは訳してはいけません。しかし翻訳エンジンから見れば普通の名詞なので、意味のある単語に置き換えられます。
自社の製品名が別の単語になって表示されていても、日本語版しか見ていなければ気づけません。

文体の基準がない

同じサイト内でも、プレスリリースと技術ブログでは文体が違うのが自然です。しかしその違いを言語化していないと、翻訳のたびに文体が揺れます。とくに複数の担当者や複数のエンジンが関わると顕著になります。

用語集で固定すること

用語集は、訳語を1対1で固定する仕組みです。まず訳してはいけない語訳が複数成立する語の2つを登録してください。

最初に登録すべきもの

完璧を目指すと着手できません。次の優先順で30〜50語も登録すれば、体感できるほど揃います。
  1. 製品名・サービス名・ブランド名 — 訳さない指定にする
  1. 自社の造語や独自機能名 — 公式な英語名を決めて固定する
  1. 業界用語で訳が割れるもの — 社内で使っている呼称に合わせる
  1. 組織名・役職名・部署名 — 英語表記を決めて固定する
  1. 数値の単位や規格名 — 正式名称に合わせる
逆に、一般的な語をすべて登録する必要はありません。翻訳エンジンが正しく訳せる語まで登録すると、維持の手間だけが増えます。

6種類の辞書を使い分ける

単純な語の置き換えだけでは足りない場面があります。私たちのサービスでは、扱う対象に応じて6種類を用意しています。用語集を設計するときの考え方として参考になるはずです。
  • 通常辞書 — 単語やフレーズを一律に置き換える。最も使う
  • 条件付き辞書 — URLや言語ごとに適用を切り替える。製品ページだけ別の訳語にしたい場合など
  • HTML辞書 — HTML要素の単位で置き換える。タグ構造を保ったまま差し替えたい場合
  • 正規表現辞書 — パターンで一致させる。型番のように規則性のある文字列に効く
  • 画像辞書 — 言語ごとに画像を切り替える。日本語が焼き込まれたバナーの差し替え
  • リンク置換 — URLを書き換える。言語別のフォームや外部サービスへ振り分ける
最後の2つは見落とされがちです。画像の中の文字は翻訳の対象になりませんし、日本語版のフォームへリンクしたままでは、読めても申し込めません。

用語集は誰が作るか

翻訳担当者ではなく、その言葉を使っている部門が決めるべきです。製品名は製品部門、組織名は人事、法的な表記は法務。翻訳側で推測して決めると、後から覆ります。
実務的には、翻訳側が「訳が割れている語」の一覧を出し、各部門が訳語を確定する形が回ります。ゼロから網羅しようとするより、実際に揺れた語から埋めるほうが早く形になります。

スタイルガイドで決めること

用語集が「語」を固定するのに対して、スタイルガイドは文章の書き方を決めます。用語集ほど厳密でなくてよく、A4で1〜2枚から始められます。

最低限決めること

  • 文体 — です・ます調か、だ・である調か。英語なら一人称を we とするか会社名とするか
  • 読み手の想定 — 専門家向けか、一般向けか。専門用語に説明を添えるかどうか
  • 数値と日付の表記 — 桁区切り、日付の順序、単位系
  • 記号の扱い — 全角と半角、括弧の種類、感嘆符を使うか
  • 敬称と呼称 — 顧客をどう呼ぶか、自社をどう名乗るか
英語版だけでなく、対象言語ごとに必要です。とくに敬語のある言語(韓国語、タイ語など)では、丁寧さのレベルを決めておかないと訳文が安定しません。

ページの種類で変えてよい

サイト全体で1つの文体に統一する必要はありません。むしろ無理に統一すると不自然になります。
IR情報や利用規約は硬く、ブログや採用ページは柔らかく。種類ごとに基準を決めて、その中で揃えるのが現実的です。種類をまたいだ揺れは問題になりませんが、同じ種類の中での揺れは目立ちます。

誰が承認するかを決める

用語集とスタイルガイドを作っても、承認の設計がなければ運用は止まります。ここが実務で最も詰まる部分です。

ページの種類ごとに線を引く

全ページに同じ確認をかけると回りません。次のように分けてください。
  • 確認なしで公開 — ニュース、ブログ、更新頻度の高いページ
  • 担当者が目視 — 製品・サービス説明、料金ページ
  • 法務や現地法人の確認 — 契約条件、法的表示、IR情報
この線引きを最初に決めておけば、更新のたびに「これは誰に聞くのか」で止まることがなくなります。

現地確認の対象を絞る

海外現地法人がある場合、現地に確認してもらうのは品質面で望ましいことです。しかし全ページを対象にすると、依頼と回収だけで日が過ぎます。
製品ページと会社情報は現地確認、ニュースは自動翻訳のまま公開。このように対象を明示的に絞ることで、確認が形骸化するのを防げます。
業種によって、どこが重いかは変わります。IRや医療のように誤訳が実害になる領域と、そうでない領域では設計が違います。詳しくは業種別・Webサイト多言語化の勘所で扱っています。

修正を次に活かす

ガバナンスで最も差が出るのは、指摘を受けたあとの処理です。

その場で直して終わりにしない

現地の担当者から「この訳はおかしい」と指摘を受けたとき、該当ページを直して完了とすると、同じ問題が別のページで再発します。
直すと同時に、その訳語を用語集へ登録してください。次回以降の翻訳に自動で反映されるため、指摘の件数は時間とともに減ります。逆に、個別修正だけを続けていると件数は減りません。
指摘の件数が減っているかどうかが、ガバナンスが機能しているかの指標になります。

翻訳メモリと用語集の役割を分ける

混同されやすいので整理します。
  • 用語集 — 語の訳し方を固定する。人が意図して登録する
  • 翻訳メモリ — 過去に確定した訳文を蓄積し、再利用する。運用の中で自動的に貯まる
翻訳メモリの価値は、コスト削減よりも一貫性にあります。人手で修正した訳文がメモリへ戻る設計になっているかを、導入時に確認してください。戻らない仕組みだと、同じ修正を毎回することになります。

誰も見ていない状態を作らない

公開後、自社の多言語版を定期的に開いている人がいない、という状態がよくあります。日本語版は担当者が毎日見ているので崩れにすぐ気づきますが、英語版や中国語版は公開時に確認したきりです。
月に一度でよいので、主要な多言語ページを実際に開く担当を決めてください。CMSの改修やデザイン変更で表示が崩れても、発見までの時間が大きく縮まります。

着手の順序

最初から完全な体制を作ろうとすると、いつまでも始まりません。次の順で進めるのが現実的です。
  1. 訳してはいけない語(製品名・ブランド名)を用語集に登録する
  1. 訳が割れている語を洗い出し、各部門に訳語を確定してもらう
  1. スタイルガイドをA4で1〜2枚作る。文体と数値表記だけでよい
  1. ページの種類ごとに、確認の要否と担当を決める
  1. 指摘を受けたら用語集へ戻す運用を回す
1と2だけでも、体感できるほど訳は揃います。3以降は運用しながら育ててください。

まとめ

多言語サイトの品質問題の多くは、誤訳ではなく訳のブレです。そしてブレは、翻訳エンジンの性能を上げても解決しません。何を固定するかを決めていないことが原因だからです。
用語集で語を固定し、スタイルガイドで文章の基準を決め、ページの種類ごとに承認の線を引く。そして受けた指摘を用語集へ戻す。この4つが回っていれば、翻訳の手段が何であっても品質は安定します。
逆に、この設計がないまま高性能なエンジンを導入しても、ページごとに違う訳が出てくる状態は変わりません。ガバナンスは翻訳の前提であって、翻訳の結果ではありません。
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